酒匂隆雄のトレードに勇気を!第5話「ディーラー人生最大のイベント」

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前回~邦銀と異なる外銀の働き方~

酒匂隆雄氏のディーラーとしての半生を追いながら、1人のディーラーとして得てきた数々の知見や成長譚を掘り起こす対談企画、第5話です。
日本人として初めて邦銀から外銀に転籍した酒匂さんが見たものは、今までとまったく違う働き方でした。
仕事を教えてくれる者はなく、作業はどれも見よう見まね。
しかしその半面、仕事のやり方は自由で残業もなく、休暇も自由にとれるという真逆の環境でした。
ディーラーとして長くやっていくためには息抜きや気分転換も必要と達観していた酒匂さんは、そんな環境のなかで早くから頭角を現し、他の外銀からチーフディーラーとして抜擢されます。

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1980年代当時の酒匂さん(左)。シンガポール支店と香港支店の為替責任者とともに

ときには手痛い失敗も

PickUp編集部:
ちょっとお聞きしてみたかったのですが、長いディーラー人生のなかでは失敗もあったのでしょうか?
酒匂:
ありましたねえ。
1978年頃かな?当時の為替レートはドルと円の表示が今とは逆で「1円=0.005ドル」というように表記していたんです。
PickUp編集部:
決済通貨(右側)が円ではなくドルだったんですね。
そういえば今でもたまにドル/円を「円/ドル」という人がいます。
酒匂:
ある時、FRBの介入を手伝ったことがあって「円を買ってくれ」と言われました。
でも、いつもドルを中心に考えていたものだから間違えてドルを買ってしまったんですよ。
円買いだったらドルを売らなければいけないんですけどね。
PickUp編集部:
えっ、介入で買いと売りを間違っちゃったんですか!?
酒匂:
まあ幸いにも損はしませんでしたけどね。
あとは「昼休み事件」というのもありました。
銀行の本店から偉い人が来ていて、近所を案内するために昼休みにみんな出払ったことがあったんです。
私は一人で留守番ということになって。
PickUp編集部:
悪い予感がしますね。
酒匂:
すると12時15分くらいにオーストラリアの銀行が円買いをしてきたんですよ(注:こちらは円売りとなる)。
昼休みで手薄なのでレートがぐんと下がってしまった。
もうどうすることもできずに、たった30分で4000~5000万の損をしてしまったんです。
PickUp編集部:
うわあ......。
酒匂:
13時半頃にやっとみんなが帰ってきて「なにやってんだ!」と怒鳴られて。
本店の偉い人はDon't worry!とか言っていたけど、こちらとしては大金ですからね。
これは結局700万くらいの損ですみましたけど、イヤ~な経験でしたね。

中銀との信頼関係

PickUp編集部:
さきほど介入という話がでましたが、中央銀行の人とは仲が良かったのですか?
酒匂:
中銀との信頼関係は大事にしていました。
そもそも介入のことはディーリングルームの外では話さないことになっているんですよ。
PickUp編集部:
それはそうでしょうね。
酒匂:
でもまあ、だいたいわかっちゃうけどね。
市場で大量に買うと電話で「アレですか!?」なんて聞かれるから。
PickUp編集部:
(笑)。
酒匂:
あるとき露骨に1億のドル買い介入をしていたら、シンガポールの支店から電話がかかってきたんですよ。
「おまえ、介入やっているのか?」と聞かれたんですが、こっちはI don't know.で済まして。
PickUp編集部:
YesともNoとも言わなかったのですね。
酒匂:
で、「おまえはこの銀行から給料をもらっているのか、日銀からもらっているのか!?」と聞かれたので「いや、両方からもらっているんだよ」と。
すると「お前は銀行に対して利益に反することをしている。支店同士では教え合うものだろう」と畳み掛けてきたから頭にきて、「そんなのおまえに教える義務はない。俺が正しいかおまえが正しいか、おまえのボスに聞いてみろ!」と言い返しましたよ。
PickUp編集部:
で、その人は?
酒匂:
そいつは一週間でコレ(クビ)ですよ。
PickUp編集部:
やはり酒匂さんが正しかったのですね。
いきなりクビというのはいかにも外資系ですが。
酒匂:
中銀との取り決めはずっと守ってきましたからね。
FRBとも毎日のように話していて、こちらの情報も教えてあげたりギブアンドテイクの関係でしたから。
守るべきものは守る。これは為替だけの問題じゃないんですよ。

ディーラー人生最大のイベント

PickUp編集部:
ディーラーとして一番印象に残った経験はなんですか?
酒匂:
プラザ合意ですね。忘れもしない1985年9月22日、30代半ばの頃かな。
PickUp編集部:
やっぱり。歴史の教科書に出てくるくらい有名ですからね。
酒匂:
もともとその前の週からドルがちょっとずつ下がっていておかしいなとは思っていました。
それで22日になると日経新聞の朝刊に小さく「ニューヨークのプラザホテルで先進5カ国が為替についての協議を行った模様」という記事が出たんです。

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為替市場の歴史的な大事件である「プラザ合意」の舞台となったニューヨークのプラザホテル

 

PickUp編集部:
前ぶれがあったのですね。
酒匂:
それで知り合いの商社の知人に電話したんですが、彼のいる地域の新聞には載っていなかった。
要は遅い時間に入ったニュースだったんです。
やっぱりおかしいと思って、次の日は祝日だっだけど会社にいくことにしたんです。
PickUp編集部:
予感がしたと。
酒匂:
そう。朝にでかけて、まずは日銀に電話しました。
すると「介入します。ドルをぶち落としますよ!」と宣言されました。
そこからはもうシドニーや香港でドルをどんどん売っていきましたよ。
PickUp編集部:
それでドルが急落したんですね。
酒匂:
いや、それが最初はぜんぜん下がらなかったんです。
PickUp編集部:
なぜ下がらなかったのでしょう?
酒匂:
その頃はまさか各国の中銀が協調介入するなんてことは想像できない時代でしたからね。
PickUp編集部:
だから下がったら買う人のほうが多かった。
酒匂:
で、その日は結局1円くらい上がって損をしてしまった。
「なんだよ......」とがっかりしてね。
ただ日銀の人が「大丈夫」と言っていたとおり、後でドルが大きく下がりましたけどね。

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プラザ合意前後のドル/円相場。この協調介入で85年末には1ドル=200円まで急落した(出所:ブルームバーグ)

 

PickUp編集部:
酒匂さんは前回のインタビューで、定時で帰宅されるし祝日もしっかり休養をとられるという話をされていました。
このときに限って、なぜ祝日に出社したのでしょう?
酒匂:
これはもう、ディーラーとしての勘が働いたとしか言いようがないですね。
PickUp編集部:
そういえば前の週にドルが下がっていたと言っていましたね。
酒匂:
そういうのもあって嫌な感じはしていました。
これはディーラーとして最大のイベントで、今でもよく覚えていますよ。

謙虚であれ、柔軟であれ

PickUp編集部:
ディーラー人生のなかで、為替相場と向き合う時に最も大事にしてきたことは何でしょうか?
酒匂:
「相場に対して謙虚であれ」ということですね。
相場というのは想定外のことが起こるのは当たり前で、それに対して謙虚でなければいけない。
謙虚にやっていたら相場が微笑みかけてくれる時がきっときますから。

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「相場に対して謙虚であれ」

 

PickUp編集部:
以前もおっしゃっていましたが、人に対しても相場に対しても謙虚さが大事だということですね。
では、いまのトレーダーの方々にアドバイスするとしたらどのようなことでしょうか。
酒匂:
「常にストップ注文を置く」ことですね。
たった1回、ストップ注文を忘れたときに限って大損するものなんですよ。
どんなディーラーだって損をすることはあります。
たしかに損切りすると元に戻ることはあるけど、それは結果論に過ぎないですからね。
今日がダメなら明日がある。1カ月間には20日のチャンスがあるんだから、その間に取り返せばいいんです。
PickUp編集部:
いつもおっしゃっていることですね。
酒匂:
そう。やっぱり「損を小さく利益を大きく」しないとなかなか儲からないですよ。
これは言うのは簡単でも、やるのは難しい。
儲かるとうれしくてすぐに利食っちゃうでしょ。
逆に損をすると戻ってほしくて持ち続けて、傷を深くしてしまいますから。
PickUp編集部:
そういった考え方はいつ頃から身についたものでしょうか?
酒匂:
40数年間やってきましたけど、こういったプリンシプル(信条)は当初から変わらないですね。
PickUp編集部:
情報についてはどうでしょう。
昔と違って、いまは情報が氾濫していますよね。どう活用していけばいいでしょうか?
酒匂:
情報の取捨選択が難しいですよね。テーマによって市場参加者の興味がかわるから。
どの情報をとるか一概に決めることはできなくて、その都度「どうしてこうなるのかな?」と考えるのが大事ではないですか。
「市場の関心は何なのか」ということをつかんで、柔軟に乗って頂きたいです。
PickUp編集部:
相場に対する謙虚さと、いつも柔軟に考えることが大事ということですね。
酒匂:
そう、謙虚であれ!柔軟であれ!です。
PickUp編集部:
酒匂さん、長時間にわたりありがとうございました。
(終)

 

Pickup編集部より

為替ディーラーとして中銀の介入を数々経験してきた酒匂さんですが、特にプラザ合意には格段の思い入れがあるようです。プラザ合意はディーラーを始めて数年後の出来事でしたが、限られた情報から異変を察知して介入に対応するなど、早くからディーラーとして鋭利な勘を持っていたようです。いまでは監視が厳しくなり先進国の為替介入が絶無に等しくなる中で、介入の現場経験をじかに耳にする貴重な機会となりました。
また、最後のお話に出た「謙虚さ、柔軟さ」はこのインタビューに一貫するテーマであるように思えます。この信条があらゆる困難を乗り越えて成果を出し続ける強いディーラーを形成するための太い支柱になったのではないでしょうか。
人に対してはもちろん、相場に対しても謙虚であること。頭の中を固定せずいつも柔軟に自由でいること。これは為替に限らずあらゆる分野に通用する考え方なのでしょう。

sakou.jpg 酒匂隆雄 氏
酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表 1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で敏腕ディーラーとして外国為替業務に従事。その後1992年、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長に就任。 その一方で2000年には日経アナリストランキング・為替部門にて第1位を受賞するなど、コメンテーターとしても高い評価を得ている。

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