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「1つのポジションを好きになりすぎちゃダメ」YEN蔵 特別インタビュー(中編)

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▼目次
1.シティバンク入行
2.紳士協定の世界
3.様々なプレイヤー
4.一番大きいトレード
5.当時のディーリングルーム
6.相場観は合っていても・・・失敗体験に学ぶ

シティバンク入行

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PickUp編集部:
では、ディーラー編ということで、シティバンクへ入行されたとき、職場環境はどうだったんですか?
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YEN蔵:
その頃の外資系は儲かったらいっぱいお金もらえる、みたい雰囲気があったので魅力的でした。当時「おまえじゃ外資系なんか行ったらすぐ首になるよ」みたいに言われたんですけど、そういわれて20年ぐらい在籍しちゃったんですけどね。 あと、邦銀って年功序列なんですけど、外資系ってあんまりそうじゃなかったです。そもそも、外為マーケットが始まったばかりの業界なんで、あまり確立されていないことから、自由気ままにやっていました。特にシティバンクは吉田さんっていうチーフディーラーがいらして、まだ若かった。あの頃、一番年上で32歳でした。
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PickUp編集部:
すごい若いですね。
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YEN蔵:
下は新卒がいるんで22歳くらい。だから20代後半か34歳ぐらいまででしたので学校のクラブ活動の延長のような雰囲気でした。
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PickUp編集部:
でも、チームで扱っている取引の金額は凄まじいですよね。
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YEN蔵:
ええ。シティバンクという銀行が大きかったんでね。 まず銀行の1本って、100万ドルなんです。大体、一番少なくても500万ドルである5本から10本をひとつの単位に取引していました。10本だと、ざっくり10億円ですね。 われわれのインターバンクっていうのは2つのミッションがあって、1つは当然自分たちのポジションを持つこと、後は銀行間でダイレクトディーリングっていうのがあったんですね、この対応をすること。 為替のレートの表示方法っていうのはビットとオファー、買ってもいいよ、売ってもいいよっていうのを両立てで相手に伝えます。相手は売り買いどっちの注文を出して来るか分からない中で提示します。あと、相手からはいくらのトレードをしたいというトレードの量だけを指定される。だから、「50本プライス」って聞かれると、50億円の取引のレートを出してください、って言われているので「ヨンマル・ヨンゴー」と返す。基本のスプレッドは5銭だったんですよ。今の10倍以上のスプレッドだったんです。「ヨンマル・ヨンゴー」は、40銭で買ってあげますよ、45銭で売ってあげますよっていう意味です。

あと、銀行にはメジャーリーグとマイナーリーグがあって、メジャーリーグっていうのは大手都市銀行とシティバンク、あとはケミカル、バンカース、シカゴ、モルガン、ファイカル、ここら辺かな。だから、50本やってる銀行は、経営体力のあるところ。お互いにプライスを聞いてトレードしあう文化がありました。それが30本しかやらないところ、10本までしかやらないところのように、銀行によってリスクをとれる幅がありました。シティは運良くか運悪くか、メジャーの50本リーグにいました。50本リーグだと東京銀行などが50本で聞いてきたら、プライスを出さなきゃいけないので、内心いやだなあと思っていました(笑)。そんなのを1日何十回とかやるんです。
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PickUp編集部:
何十回も、ですか。
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YEN蔵:
そう。何十回か、何百回かプライス出します。銀行間で50本で打ち合ってる、東京銀行、第一勧銀、三和、ここら辺がメジャーですよね。あと住友か。住信、菱信、シティ、ケミカル、バンカース、ここら辺が一次リーグですよね。
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PickUp編集部:
10行ぐらいですかね。
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YEN蔵:
うん。もう少しあったかな。都市銀行の大手、東海さんとかもいたかな。だから、正直言ってそこが一番のレートの発信地で、そこにいるってことはやっぱりプライドでもありました。でも東京銀行とかDKBってお客の大口注文が入るんですよ。シティは、ロンドンタイムには外国の顧客の大口注文が入るからいいんだけど、東京じゃやっぱりそういう顧客からの注文が無いんです。その顧客の注文をうまく利用して、いかにマーケットをマニピュレイトしていくかっていうのがメジャーリーグにいる銀行ディーラーの面白みなんですよ
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PickUp編集部:
聞いているだけでドキドキしますね。でも、嫌な時もありますよね。
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YEN蔵:
そりゃもうたくさん。50本とか打たれイヤですもん、怖いし(笑)。すぐ10銭下が売りになっちゃって、それだけで500万マイナスからスタートなんでよくありました。ただ、それだったら自分のところに大口注文が入ってきた時は、もう相場を動かしてやるっていうのがインターバンクのボードディーラーの醍醐味ですので、頑張っていました。

そんなことを朝9時から東京時間15時まで打ち合いをやって、はぁ疲れたとか言って今度バンカース・ロンドンがピーピーピーとか言ってドル/円20本とか呼んできて、はぁ今度はバンカースかよとかってやっていました。バンカースっていうのは、バンカース・トラストって言って、投資銀行を目指したドイツ銀行が買収して、その後やりすぎてドイツ銀行が潰れそうになっちゃったという逸話もあります。バンカースでは「シティを見ろ、南米に金貸しすぎて潰れそうになっているだろ、でも投機で潰れた銀行は無いんだ、どんどん投機やれ」みたいなことを頭取自ら言うような銀行だったらしいんですよ。都市伝説かもしれませんが…
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PickUp編集部:
豪快ですね・・・

紳士協定の世界

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YEN蔵:
東京のディーラーは皆、皆仲良かったですね。やっぱり銀行員は紳士というか、まだまだ邦銀で上下関係が激しかったころなんです。結構そこら辺の教育ってしっかりしていました。

それで、東京銀行の野村さんは、怖いけど正々堂々とやろうよみたい雰囲気で、東京タイムのいいところだったんですよ。
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PickUp編集部:
野村さんが・・・。想像つくような、つかないような・・・。
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YEN蔵:
でも、スプーフって知ってます?意味は「なりすます、罠にかける」みたいなことなんですけど、ロンドとかシンガポールと香港とかニューヨークとかは、勝てばいいっていう感じで紳士でない。ブローカーをスプーフするんです。「ヨンマル買い」とか言って「サンマルサンゴー」、「サンゴーテンからヨンマル買い」、「ヨンゴーゴマル」とか言ってブローカーに出すわけです。そこで、ドル/円20本とか言って呼んでくると「ヨンゴーゴマル」か、「ゴマルゴーゴー」って言ったら、セルとか言って売ってくるわけです。要は、ブローカーを自分のやりたい方向と逆にするんです。バンカース・ロンドンの常套手口でした。
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PickUp編集部:
ブローカーが提示するレートを誘導するんですか?
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YEN蔵:
そう。スプーフは皆やめようねと東京タイムはそれが御法度だった。でも、海外勢はそのスプーフって必ずやる。めちゃくちゃレートを寄せといて逆にバーンとやってくる。だから東京タイムで痛めつけられてロンドン入ってくると、今度はバンカース・ロンドンにやられて、みたいな。もう助けてくれよっていう(笑)。でも、だからたまに僕も大きな注文が入るとスイス時間って相場が薄いんでロンドンの入ってくるまでの1時間と冬時間。東京時間外ならスプーフやってもいいじゃないですか。だから、売りたいときは「ヨンマルヨンゴー」、「ヨンゴー買い」とか言ってやっといて…。
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PickUp編集部:
え、紳士協定は…(笑)
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YEN蔵:
海外寄って、売ってバンバン叩くという(笑)。
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PickUp編集部:
はあ(笑)。
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YEN蔵:
そう。為替はやっぱり何でもありありなんで、そういう偽玉ありのフロントランニングありの、何でもありなんです。株はダメですよね、取引所だから。そういうスプーフとかやってた、それがインターバンクのダイレクトディールっていう銀行間の取引だけいましたけど、それ意外にお客さんがプライスを聞いてきたらそれに対して提示をしなきゃいけない。先にお客さんが売りたい、買いたいって言ってくれることもあったんですけど、基本は50本プライスっていってどっちくるか分からない。

結局大きい投機筋のお客さんが東京でも回るからやっぱり東京銀行とか住友とかがダイレクトディールでその大きな注文を銀行間のメジャーリーグでさばいて行くっていうことをしていました。最後の最後にブローカーに注文がどんと出てくるっていう感じですね。

様々なプレイヤー

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YEN蔵:
やっぱりその頃にトレードを頻繁にしていたのは生保とか損保とかだったんです。関西の大きな家電メーカーもすごくガンガントレードやっていたし、ほかの大手家電メーカーもやっていた。1番すごかったのは、「ため池」って言われていたんですけど、ある商社も投機筋として有名でいっぺんに1,000億ぐらいマーケットにぶち込むから、それが来るとすごく慌ててしまう、マーケットが動いちゃうんですよね。あと、大阪に中堅商社があったんですけどそこもすごい投機筋として有名でした。
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PickUp編集部:
各社、ご本業があるじゃないですか。なぜ為替取引に行くのでしょうか。
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YEN蔵:
その頃はお金がジャブジャブだったんでそのお金を運用しようということで、特金といっていましたが、特定金銭信託で、利回り確保で10%で回しますよとかいって金融機関からお金を預かって、それでトレードをしてたわけです。
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PickUp編集部:
10%ですか?すごいですね。
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YEN蔵:
利回りをほぼ握って特金といってそこにお金を入れて、だからそこで株やったり為替やったりとかまあいろいろやっていました。
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PickUp編集部:
しかし利回りを約束しちゃうってなかなか過激ですね。
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YEN蔵:
うん。だからうまくいかなくなったときは、損失補填とか飛ばしとかがありました。有名なのは山一證券とかですよね。そういうのを1991年から94年ぐらいまではずっと繰り返していたんですよ。そういうデリバティブを作るのがお得意なのが投資銀行でしたね。2年、3年は延命していたんですけど、結局つぶれちゃった。持ち値に相場が戻れば全てOKだって思っていたんだけど、結局戻らずに。

一番大きいトレード

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YEN蔵:
50本とか100本とか飛び交っていたけど、僕が1番やった大きいトレードは1,000億円以上でした。
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PickUp編集部:
1,000億円!!!
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YEN蔵:
あるお客さんから、このレート水準にきたら1,000億買ってくれっていうオーダーをもらって。それをエクスキューションしたんですね。僕は、自分のポジションの分を下から買っていって、銀行の皆にも言って一緒に買わせて。1,500億ぐらい買ったかな。そしたら4円ぐらいドル円すっ飛びましたけどね。その頃はそういう感じなんですよ。5銭刻みだから昔は東京時間で1円は動くのは当たり前で海外合わせると2円ぐらいは平気で毎日毎日動いていたんですよ。毎日毎日2円。3円以上動くと今日はちょっと動いたね、みたいな感じだった。
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PickUp編集部:
日々1円2円が動くよく変動する相場とはいえ、4円はかなり動いたという感じなんですね。
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YEN蔵:
ええ。あれが僕の記憶に残っている、相場を動かしたディールの1つですね。あれがワンショットで1番多分大きい量だったと思う。

あともう1つは、僕が92年ぐらいからマルク/円のボードディーラーをやったんですけども、「ドル/円だったら東京銀行に勝てないけどマルク円だったらアジア1になれるだろ」っていう野望を抱いていまして。その時シティ・シンガポールに恐らく政府系がバックところから注文が入るんですけど、いくらでもいいからマルク/円を買えっていうオーダーがきたんです。シティ・シンのマルク/円は弱かったんで、東京に頼んできたんですよ。だから僕その時500本ぐらいマルク円/買いました。やっぱりその時も1円ちょい動きましたけど。あれもちょっと記憶に残るディールでしたね。

そういうふうに昔は投機筋がいっぱいいたんでワンショット1,000億なんていうのは平気でやっていました。あと、東京時間にも有名なヘッジファンドのオーダーがニューヨークのナイトデスクから入っていましたね。そのヘッジファンドは「500億買え」、「500億買え」って、さみだれ式で注文してくるんです。シティで5、6回やったら次の銀行行ってまた同じ注文を出す。そんな感じですから、ポジションをカバーしないで持っているいとか、あり得ないんですよ。もうさらに倍返しして、どうせ他でもやるんでしょみたいな感じだから。
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PickUp編集部:
ヘッジファンドおそるべしですね・・・。
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YEN蔵:
それで為替がガンガン動くんです。投機筋から注文が入る銀行にいるっていうのは、確かにマーケットの方向が見えるので、やっぱりシティとかそういう米系大手にいたりヨーロッパ系の大手でそういうヘッジファンドの大手とか、中央銀行の注文が早く来るとこにいると有利なんですよね。昔はそれに乗っていけばトレンドが大きく出た。言ってしまえば、そういう強いトレンドに乗っとけば勝てた時代なんですよね。ある意味簡単な時代でした。今みたいにAIもいないし。
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PickUp編集部:
今や為替市場は巨額マーケットですけど、いわゆるヘッジファンドが相場を動かすっていうのはあんまり考えなくていいってことですか。
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YEN蔵:
AIのせいで為替が動かなくなっちゃったじゃないですか。だから、トレンドが出にくくなって、ファンドが入りにくいですよね。
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PickUp編集部:
なるほど。
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YEN蔵:
昔はファンドも永田町ネタとかいって、実は日本の政治ネタに強かったんです。政治ネタを利用してマーケット作ったりしていたんですけど。今そういうのでマーケットできないですよね。だから、マーケットが変遷しちゃった。少し長期のスイング的なトレンドがなかなか出づらいマーケットになってきましたね。1円~2円ぐらいの動きはありますけど。昔ソロスなどが5円とか10円とか20円取りに行っていたから、そういうファンドたちはちょっと動きにくくなりましたよね。あと、金利が大きく動く時って為替も動いたものなんですけど、今は金利が動かないからそれもない。
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PickUp編集部:
確かに。日本の政治で為替が動いたなんて、そんな時代もあったんですね。
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YEN蔵:
あとは、米中貿易ネタとかでレートが動くんですけど、昔はニュースに反応しやすくて、その反応する時間も今みたいにAIがトレードしてすぐ終わっちゃうんじゃなくて、ながく反応するんで、やっぱりそれもトレンドに出やすくなりました。ゴルバチョフがクーデターで捕まった時(1991年)とか、確かドルマルク1,000ポイントぐらい上がってドル買いになっちゃったんじゃなかったかな。あとイラクとイランが戦争やってた時とかあって、停戦(1988年)するという報道が出た瞬間にそれまで有事のドル買いだったのが、1円下が売りになったりとか。そういう結構ワイルドな動きをしていました。

当時のディーリングルーム

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YEN蔵:
シティの新人時代は、内部デスクは、ロンドンとかニューヨークとやるので、海外はすごくレートが動くからロンドン時間ってすごく面白かったですね。東京も今ほど動かないマーケットじゃなくて、もう少し動いたんですけど、やっぱりロンドンとかニューヨークの時にすごく動く。そこはすごく面白いし、やっぱりロンドン入るとドル/マルクとかポンドとかその頃ユーロが導入されるまではリラとかスペインペセだとか通貨ものすごい多くあったんですよ。

だから、結局そういう通貨って最後の最後はドル/マルクのところに寄せられてくるんですけど。マルク/ペセタとかマルク/リラとか、ポンド/マルクは、今だったらユーロ/ポンドですね。マルク/パリ(フラン)とかマルク/ギルダーとか全部マルクとの取引になっていて、結局それが帳尻合わせるためにドル/マルクが動いてくみたいな感じでしたね。
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PickUp編集部:
通貨の種類が多いですね。
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YEN蔵:
そう。それぞれの通貨にディーラーがいました。今はもうほとんど人間のディーラーはいなくなっちゃいましたね。お客さんから注文を受けて銀行間トレードをやりながら自分のポジションをやってくっていうのがボードディーラーの務めっていう感じでした。役職が上がってシニアになっていくとボードディーラーは辞めて、自分のポジションだけ見ていくようになる。プライス出さなくていい人になっちゃうんです。
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PickUp編集部:
実際YEN蔵さんは、どんな感じでディーリングしていたんですか?
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YEN蔵:
吉田さんって方がシティの為替チームのヘッドだったんですけど、吉田さんがポジション持ってボードディーラーの僕のところに来て「ストップロスはじゃあ120円80銭においといて」と言われ、置くわけですね。彼は100本のポジション持っていました。そこで僕は考えて、どう見ても上値が重い、と思ったら、僕はショートポジションを作っておくわけですよ。邦銀だと上司と反対のポジションを持つのはすごく大変らしいんですけど。僕としては、例えばストップロスつけるにしても120円75銭までいったとして、そこで反転するかもしれないじゃないですか。

そういう相場の転換点のポイントってよくある。だからそこで耐えるためにはその手前から売っておいてショートをある程度持ってないとダメですよね。あとは、上司が上がると思っているのに僕は下がると思ってショートのポジション持って、上司のストップロスで利食おうと思って待っているわけですね(笑)。でもハチマルとか、ちょっといったぐらいで戻っちゃえばそれはストップロスなしでいいですよ、自分はショート持ってるわけだから、それができるんだけど。何もなしでそこを迎えたらやっぱり売りたくなっちゃう。吉田さんやられるかもしれないけど、僕ショートで売っときましたからねと。儲かったら、どうせチームなんだから僕の儲けもあなたの儲けも一緒でしょ、リスクヘッジしてますよ、みたいな話。そういうことができる自由な銀行でしたよね。
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PickUp編集部:
ご自分の判断でディールできることで、経験がたまったんですね。
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YEN蔵:
そうですね。全く自由だった。あの頃は円高の時代だったんで、売るとなるとショートをみんな持ちたいんです。そうすると、銀行が定めた、持てるポジション量のリミットを超えちゃうぐらいになる。すると、上司の枠から取ってく。「僕がボードディーラーをやっているんだから吉田さんちょっとポジションくださいよ」とかやっていました。当然ちゃんとした言葉遣いでお願いはするんですが、そういうことが言える雰囲気でしたね。

相場観は合っていても・・・失敗体験に学ぶ

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PickUp編集部:
そんな中、トレードの失敗からの学びって、ありますか
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YEN蔵:
僕が1番損したのは、マルク/円をやっていた時です。振り返ってみれば、東京で、アジアで1番のマルク/円ディーラーだ、みたいなおごりもあったと思います。実際、すごくその時はアジアのマルク/円、シティ東京っていうのは結構有名だった。その日は、売っても売っても買ってくる相手がいたんです。ある信託銀行だったんですけど、信託銀行ってファンドマネージャーの注文が出るんで、すごい量を扱うわけです。特に特金、特金は信託銀行に口座があるから。
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PickUp編集部:
信託銀行がしつこく買ってくるんですね。
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YEN蔵:
そう。それに、立ち向かっちゃったわけですね。売りポジションを切れる(決済する)チャンスはいくらでもあったのに、切らないでどんどん売って、月間のロスリミットも超えちゃったんです。それで、ポジションは敢え無く閉じることに。
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PickUp編集部:
月間に許容される損を、一日で超えてしまった・・・
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YEN蔵:
そうです。その日は結構為替が動いたんですよ。その信託銀行が買いあがったから。結局東京タイムて付けたマルク/円の高値は、その後2円落ちて僕の相場プランは正しかったっていうオチなんだけどね。そうは言ってもロスリミットを超えちゃったんで、そうするとペナルティボックスに入らなきゃいけないんです。

でもボードディーラーは僕しかいないので、もう少しロスリミットやるからもうちょっと頑張れと言われました。僕は、その日が月の初めの方だったので、これで1カ月休めるからちょっと旅行に行こうか、もういいやとか思っていたので、リミットくれなくてもいいんだけどなとか思いつつ(笑)。その後の1カ月は1番ロスリミットが小さかったし、テンション高かったから。すごく儲かりました。
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PickUp編集部:
冴え渡ってたんですね。
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YEN蔵:
結局、月初のロスをチャラにするぐらい儲かったんです。儲かった額も大きかったし、すごくコツコツ慎重にやったので勝率の高いディールになりました。あの時は頑張って取り返しましたね。
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PickUp編集部:
マルク/円のディールに自信があり、多少おごりがあったことを正したら、本来のディールができるようになった、という事でしょうか。
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YEN蔵:
それもあるけど、1日の動きでいうと、ここを超えたらショートカバーが入るからそこは切らなきゃいけないなっていうポイントはあって。それも分かっていた上で売り向かっちゃったんです。やっぱり、最初に決めたストップロスとか利食いのポイントっていうのは、一度はそこでちゃんとポジションきれいにしなきゃいけないということは痛感しましたし、その後守るようにしました。それはいまでもそう通用しています。損したら、一度ポジションきれいにした上で見ないといけない。繰り返しますがストップロスを最初の決めたところ、利食いを最初に決めたところかどんどん自分に都合によく動かすのはやっぱり絶対ダメなんですよ。
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PickUp編集部:
言葉に重みがありますね・・・。
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YEN蔵:
一度、損切りしてみて、マーケットが違う方向にいったらまた考えればいいんです。そこで冷静になれないと、ダメですね。
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PickUp編集部:
ちなみに、大きく損したのはその日だけなんですか。
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YEN蔵:
そこまでは、やっぱりマネーマネジメントがうまくいってたんですよね。あと、そんなに巨額なポジション持ってなかったら、うまく対処できちゃっていたんですよ。大きすぎるポジションだったというのも失敗要因かな。
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PickUp編集部:
何年も第一線でディールしていても、普段と違うディールで損しちゃうんですね。
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YEN蔵:
これは株式投資もそうだし、FXもそうなんですけど、1つのポジションを好きになりすぎちゃダメ。こだわりすぎちゃダメだと思うんですよね。相場は今日も明日も明後日もずっとあるから、「このポジションで、何とか儲けよう」っていう考え方は1番ダメ。ホームランは狙って打てるもんじゃないんです。投資資金の10倍とるぞみたいなの絶対ダメ。トレードは相場の流れの中でやってかないと。あとダメだと思ったらちょっと止めてみて様子を見るっていうことでしょうか。

PickUP編集部より

ディーラー当時最大1000億円以上もの金額を扱っていたYEN蔵さん。
1つのポジションにこだわりすぎないことを強くおっしゃっていました。
失敗から学ぶ大切さを痛感した中編となりました。

↓↓↓前編はこちら
https://www.gaitame.com/media/entry/2019/12/05/183438

YEN蔵
株式会社ADVANCE代表取締役 米系のシティバンク、英系のスタンダード・チャータード銀行で、20年以上にわたり、為替ディーラーとして活躍。現在は投資情報配信を主業務とする株式会社ADVANCE代表取締役。ドル、ユーロなどメジャー通貨のみならず、アジア通貨をはじめとするエマージング通貨でのディーリングについても造詣が深い。また、海外のトレーダー、ファンド関係者との親交も深い。ブログ「YEN蔵のFX投資術」、メルマガ「YEN蔵の市場便り」で個人投資家に対して為替に関する情報を発信しており、人気を博している。