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「全人代後の為替相場」若竹コンサルティング代表 戸田裕大

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こんにちは、戸田です。

本日は「全人代後の為替相場」と題しまして、先週閉幕した全国人民代表大会(全人代)の注目材料を踏まえ、今後の為替相場がどのように動いていくか?考察していきたいと思います。

本記事は以下4項目で構成しました。

⦁現在までの為替相場 ~新型コロナから米中対立へ~
⦁全人代、公表された中国財政金融政策の影響
⦁全人代、可決された香港・国家安全法の影響
⦁為替相場への影響まとめ

それでは早速みてまいりましょう。

現在までの為替相場 ~新型コロナから米中対立へ~

まず将来の相場について考える上で、現状分析は欠かせません。筆者は現在の為替相場の大きなテーマについて、「新型肺炎」から「米中対立」に移りつつあると考えております。そこで米中対立、すなわち米中貿易摩擦が表面化した2018年以降の為替相場を振り返ることで足元までのトレンドを確認していきます。

以下のチャートをご覧ください。2018年以降のドル円およびドル人民元のチャートです。ドル円(青)は明確なトレンドが出ていない一方で、ドル人民元(赤)はドル高・人民元安のトレンドが明確に出ていたことがわかります。

f:id:gaitamesk:20200601083356p:plain※USD/JPJは左縦軸、USD/CNHは右縦軸を参照。
USD/JPYは明確なトレンドが出ていない一方で、USD/CNHはドル高・人民元安のトレンドであった。

端的に言ってしまえば、このトレンドが継続するか?しないか?ここを読み解くことで中長期の相場感を醸成し、売り買いどちらからエントリーすべきかの判断材料とします。そこで中長期のトレンド分析に重要なファンダメンタルズ分析、中でも注目の集まった全人代の内容について改めて振り返っていきます。

全人代、公表された中国財政金融政策の影響

中国は新型肺炎の経済への悪影響を踏まえ、既に「オフィス賃料の免除」「法人税の減税」「地方債の発行(財政出動)」を進めてきました。今回の全人代を通じて新たな経済対策は公表されませんでしたが、各種減免措置を年内まで延長することや、地方債に国債を加えて2兆元(約30兆円)の財政出動を予定していることについて明言しました。

中国は2008年リーマンショックの景気後退局面で4兆元の経済対策を行うと表明し世界中から注目を集めましたが、2020年新型肺炎に対する経済対策の金額は2兆元であり、4兆元から半減してしまいました。これについて李克強首相(実務No.1)は以下のように表現しております。
“放水養魚”
十分な水がなければ魚は育たないので水を補充するが、水が多すぎてもバブルになってしまう。さらにはその水を利用して鞘取りをする輩まで出現してしまう。そのため必要以上の経済対策は行わない。

非常に地に足のついた財政政策であると感じています。

また金融政策についても、「放水養魚」の考え方が適用されており、事実として現在までPBOC(中国の中央銀行)による債券・株式買取策は発表されておらず、日米と比較すると中国の金融政策がより伝統的で保守的な金融緩和手法に限定して行っております。

通貨価値を薄める金融緩和ですが、中国は日米と比較して相対的に節度ある金融緩和策をとっており、人民元が米ドルや日本円に対して今後もさらに弱含むかどうか、やや疑問が残るところです。

全人代、可決された香港・国家安全法の影響

ご存知の方も多いと思いますが、今回の全人代で香港に対する国家安全法案が可決され世界中の注目を集めました。詳細はまだ開示されておりませんが、国家安全法は昨年から今年にかけて行われている香港市民による反中国政府デモに対する対抗措置と推測され、例えば香港市民デモを現在の統治体制への反乱とみなして、法のもとに公に処罰を実施できる制度に変更すると考えられています。

これに対して、英米は共に反対の意を表明しました。英国はラーブ外相が香港パスポート保有者に対する英国滞在可能期間の延長(将来的に英国市民権の獲得につながる)を検討との声明を、米国はトランプ大統領が香港への貿易等の特例措置を撤廃し今後は香港を中国大陸と同様に扱う旨の声明をそれぞれ発表しています。さらに、米国はナスダック上場基準の厳格化、通信技術会社に対する制裁措置の実施などを通じて、中国企業への圧力を一層強めております。

ここから読み取れることは、今後ますます英米と中国との関係が悪化していく可能性が高いと言うことです。2018年から足元までは、米国よりも中国が受ける打撃が大きいとして、相場は人民元安に作用してきました。これを基本線と考えておく必要がある一方で、想像出来る範囲内の中国に対する経済制裁は既に公表され、さらに追加で中国経済に大きく悪影響を与える施策が出てくるのか、ここも疑問が残るところです。

米中貿易摩擦開始の2018年から足元まで、人民元は1 USD = 6.3000 から 1USD = 7.1000 まで既に12%強の元安が進んでいることを考えると、さらなるドル高・人民元安の余地は大きくないのでは?と考えています。

さらに米国のWHOに対する資金引き上げ、中東からの軍事撤退など米国のリーダーシップ低下を招く施策の数々は中長期的に米ドルの信任を低下させる可能性があるため、ドル買いからエントリーすることにやや違和感を感じているところです。

上述の要因を考慮し、ここからの人民元相場は徐々に反転していく(元安幅の縮小)を基本シナリオに据えようと考えています。

為替相場への影響まとめ

さて、それでは全人代を通じて得た情報に対して、為替相場への影響をまとめていきます。

・2018年から足元まで、ドル円は明確なトレンドがなく、一方でドル人民元はドル高・人民元安トレンドを形成した(12%強の人民元安)
・全人代では中国の手堅い財政金融政策が確認された(自国経済への自信の裏返し)
・香港国家安全法が可決され、今後ますます米中関係が悪化する中で、ドル高・人民元安は基本線として認識しておくべき
・ただし、既に12%強の人民元安が進んだこと、悪材料出尽くし感があること、米国のリーダシップが低下していることなどから、中国の景気回復動向を睨みつつ、人民元の元安幅が縮小していく(緩やかな反発)可能性に留意。

いかがだったでしょうか?本日は全人代のポイントをご紹介しつつ、今後の為替市場のトレンドについて筆者なりの考察を加えてみました。

引き続き皆様の為替取引のお役に立てる情報を配信できるよう努めてまいります。それでは、またお会いしましょう。


戸田裕大


<参考文献・ご留意事項>

人民网:十三届全国人大三次会议
http://lianghui.people.com.cn/2020npc/

2020年5月30日、トランプ大統領、ホワイトハウス記者会見

為替チャートはInvesting.comよりデータ取得し、弊社作成

記事内、1人民元は15日本円として計算

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大氏
2007年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、 日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019年9月CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は法人向けにトレジャリー業務(為替・金利・資金)に関するサービスを提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022 年)。