国家安全法の注目点と今後のシナリオ「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

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こんにちは、戸田です。

香港シリーズ、第5回目は「国家安全法の注目点と今後のシナリオ」でお届けします。先週6月30日から適用されました中国の国家安全法の注目点を解説し、それに対する海外の反応を考慮しつつ、今後のシナリオについて想定していきます。

投資やビジネスのご参考にして頂ければ幸いです。

目次

1.国家安全法の注目点
2.海外の反応
3.今後のシナリオ

1.国家安全法の注目点

全66条から成る国家安全法ですが、この中で筆者の主観ではありますが重要な点を挙げていきます。条文の順序を前後させますが、より分かりわすくご説明するためのものであり、ご容赦ください。

第3条:中央人民政府は香港特別行政区の国家安全に関する責任を負う
解説:中央人民政府主導で国家安全法を制定した根拠になります

第62条:香港特別行政区の現行法が本法律と矛盾する場合、本法律の規定が適用される。
解説:従って国家安全法は香港基本法より優先されます。

第20条 いかなる人や組織も、国家の分裂や破壊を目的にした行為に実行・参加する場合、武力行使の有無に関わらず犯罪とする。
解説:いわゆる国家分裂罪に関する条文です。原文では次いで国家転覆罪、恐怖活動罪と続いていきます。なおいずれの罪に対しても最大刑罰は無期懲役です。

第12条・13条:国家安全委員会を設置し、香港行政長官が主席を務める
解説:上述の犯罪を取り締まるべく新たに設置された機関が国家安全委員会です。中央政府の監督と問責を受けて、国家安全を維持します。つまりキャリーラム長官が矢面に立ち、中央政府と香港居民の板挟みになる格好です。

第9条 香港特別行政区は、国家の安全維持とテロ活動防止の取り組みを強化する
解説:メディアやインターネットも対象となるため、今後はより一層、香港内で政府に対する表現に配慮する必要があります。大陸内に近い、または同様の運営になるものと推測します。

第33条3項:他人の犯罪行為を告発する、または重要な手がかりを告発することで、減免の対象となる
解説:この条文により、政府に関する発言は、今後、友人・知人に対してであっても配慮する必要があります。

第6条:選挙に立候補するか公職に就く場合、香港基本法を支持することを表明する必要がある
解説:これが Joshua Wong, Agnes Chow 氏らが所属政治団体(デモシスト)から離脱した要因と言えそうです。


さてどのように感じましたでしょうか。政府に対する批判は禁止となると、実質的には言論の自由がないので、民主主義の根底にある大事な考え方が抜け落ちてしまっています。従って一国二制度は維持されていないと言う見方が大勢を占めているわけです。

蛇足ですが、中国の根本的な統治体制について少し言及しますと、中国は法治国家です。ですから有罪・無罪の判断は法律に則って行われますし、国家安全法も具体的な内容が明文化されています。

しかし立法の非常に重要なところを中央集権で行うため、この点が他の先進国からすると異質に感じる点です。

2.海外の反応

さて次に海外の反応を追っていきます。各国の公共報道メディアなどを通じて以下のように伝わっています。

英国:イギリスのボリス・ジョンソン首相は1日、香港市民300万人に対し、イギリスの市民権や永住権の申請を可能にする方針を明らかにした。(B B C)

米国:米下院は1日、中国による「香港国家安全維持法」の施行を受け、香港の自治侵害に関して制裁を科す「香港自治法案」を全会一致で可決した。現在はトランプ大統領の署名待ち。(B B C)

オーストラリア:モリソン首相は2日、6月30日に施行された「香港国家安全維持法」を受け、香港住民の受け入れを検討する方針を示した。(日経新聞)

カナダ:トルドー首相は3日の記者会見で、香港との間で結んでいた犯罪人引き渡し条約を停止すると発表した。中国が「香港国家安全維持法」を施行して以来、香港との法執行関係を断つ最初の国となる。(ブルームバーグニュース)

ニュージーランド:アーダーン首相、一国二制度の崩壊について指摘し、ファイブアイズはほぼ共通の認識を持っていると主張。(インタビューを筆者が確認)

欧州:EUは、香港特別行政区立法会や市民社会と意味ある事前協議のないまま採択された同法について、深刻な懸念を再度表明する。(欧州連合(EU)共同声明)

まずファイブアイズですが、一致団結して首相自らが強く直接反対の意を表明しています。

中でも英国は、ここのところ国営放送B B Cを通じてウイグル人権問題や、香港問題についてとても積極的に情報発信を行っています。B B Cの取材力は高く、また影響力が極めて大きいので、中国の今後の活動の足枷になっていくものと思われます。

また米国は香港に対する米ドルローンの制限などについて纏めた「香港自治法の修正法案」を、派閥を超えて、上下院共に可決させました。トランプ大統領も署名せざるを得ないはずで、これも香港の金融セクターとしての活動の足枷になることが推測されます。

一方で欧州と日本は比較的やわらかい対応で、欧州はE Uを通じて、日本は国連を通じて遺憾を表明するに留まっています。欧州と日本は、中国が地理的・経済的に重要であるため、配慮しているのが実態と思います。

3.今後のシナリオ

さて今後のシナリオについて想定していきたいと思います。

まず残された香港居民ですが、富裕層は海外に移住する選択肢を取ることも増えてくると思います。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、香港の富裕層は半端ではない富裕層の方が多いので、海外永住権の一つや二つ持っている方はざらにいます。そう言う方は海外に移住するきっかけになると思っています。

一方、香港現地で職を持って生活を維持されている方々は、容易には海外移住出来ないので、残らざるを得ないのかも知れません。

また全体論として、香港から海外に資産を移す方も出てくると思います。向かう先はシンガーポールだったりドバイだったり米国だったりするのだと思います。日本は税制面と言語面で改善の余地があるので、これを機に見直しが進めばもともと香港に流入していたフローを取り込める機会もあるはずです。

一方で中国本土から香港へのマネーの流入は止まらないと思います。香港は中国語が通じることと、中国人からすると圧倒的なロケーションの良さがありますので、この流れは大きくは変わらないように思います。


さて本日は以上となります。なおここ数日、中国株・香港株ともに非常に大きく上昇しておりますが、中国人は気質として上値をさらに追いかける傾向にありますので、上値をさらに試す展開となるかも知れません。日本の個人投資家(ミセスワタナベの逆張り)とは反対に、「龍に乗る」などと言って勝っている方に便乗する傾向があります。注目してみていきたいと思います。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

戸田裕大

【過去記事】

 

<参考文献・ご留意事項>
Promulgation of National Law 2020
https://www.gld.gov.hk/egazette/pdf/20202444e/es220202444136.pdf

BBC:ジョンソン首相、香港の300万人にイギリス市民権への道示す
https://www.bbc.com/japanese/53259716

BBC:米下院、香港めぐり中国制裁の法案を可決 国家安全法を非難
https://www.bbc.com/japanese/53260090

日本経済新聞:豪、香港住民の受け入れを検討 国家安全法施行で
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61074070S0A700C2FF2000/

ブルームバーグ:カナダ、香港との犯罪人引き渡し条約を停止-国家安全法の施行受け
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-03/QCWYFMDWLU6C01

ドイツ連邦共和国大使館総領事館:中国全国人民代表大会の香港国家安全法採択に関する欧州連合(EU)共同声明
https://japan.diplo.de/ja-ja/aktuelles/-/2361770

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