「新型コロナ… 香港国家安全法… 敵対関係に入った米中」武者陵司 新型コロナショック

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米国 対中政策 守りから攻めへ

 米国の対中姿勢が守りから攻めへと180度転換した。これまでは中国の不正に対する抗議、是正要求であり受動的だった。しかし今後は中国共産党変革が目標になり、軍事力行使を含めてあらゆる手段が検討される能動的なものになる。

 香港国家安全維持法実施までの米国の対中対姿勢はもっぱら守りであった。しかしポンペオ米国務長官は7月13日、「南シナ海の中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」と批判した。これまで国境紛争には中立の立場をとり続けてきた米国政策の根底的変更である。 

 これに前後してトランプ政権の高官が相次いで中国共産党敵視ともいえるスピーチを繰り返していた。「全体主義の政党である中国共産党の信条と陰謀を暴くことは世界の人々の利益である」(オブライエン大統領補佐官、6/24)。「中国共産党は秘密情報網の構築、大量のサイバー攻撃などにより、米国の経済と安全に計り知れない被害を与えた。」(レイFBI長官7/7)「中国共産党の世界征服の野望にいかに対応するかが、全世界の最重要な議題」(バー司法長官7/16)などである。 

 その集大成が7月22日のヒューストン中国領事館閉鎖命令と7月23日のカリフォルニア州のニクソン記念図書・博物館でのポンペオ国務長官の演説である。「習氏は破綻した全体主義のイデオロギーの信奉者で共産主義に基づく覇権への野望を持っている」と決めつけ、歴代政権の中国関与政策は失敗したと断じた。ニクソン大統領の歴史的訪中(1972年)によって始まった50年間の対中宥和政策が終焉したことをニクソンゆかりの地で宣言したのである。また中国共産党の行動転換を促すため「自由主義諸国が行動するときだ。今行動しなければ、中国共産党は我々の自由を侵食し、ルールに基づく秩序を転覆させる。自由社会が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。民主主義諸国の新たな同盟を構築する時だ」、と呼び掛けた。トランプ政権は腹を固め中国の野望を打ち破る戦略を確立したと見るべきである。中国共産党を変革するべき対象(=事実上の敵)とすれば、もはや口実は必要ない。どんな手でも打てる。

 こうなってくると極論と見える観測が正鵠(せいこく)である可能性が出てくる。ジャーナリスト近藤大介氏はインターネットメディア現代ビジネスで、「トランプ政権が南シナ海に中国が建造した人工島を攻撃する賭けに出る可能性がある」と主張している。「人工島は、中国の民間人はほとんどいないし、常設仲裁裁判所が「違法だ」と判決を下している。また、中国本土から1000kmも離れているため、中国との全面戦争にもなりにくい」。 

 実は中国には南・東シナ海の海上輸送路に大半の貿易を依存しているという、絶望的脆弱性がある。この独り占めしようとしている南シナ海の制海権が米国にあると見せつけられれば、中国は著しいショックを受けるであろう。また国際社会は世界の警察官を放棄したと侮っていた米国の力量と決意をリスペクトせざるを得なくなるだろう。7月中南シナ海では2回にわたって米空母ミニッツとロナルド・レーガンによる合同演習が実施され、海上自衛隊は7月19~23日まで、南シナ海および西太平洋で、米空母打撃群とオーストラリア国防軍との3国共同訓練を実施している。

  なぜ対中政策の抜本転換が今なのか。第一は中国の横暴が容認できぬところに来たことである。香港国家安全法実施で英国が、国境紛争でインドが、invisible invasion(見えざる侵略)とコロナ感染隠蔽でオーストラリアが寛容ではいられなくなり、対中封鎖連携の機が熟した。第二にトランプ氏が選挙政策の中心に、対中戦を据えた。今後対中非難の世論誘導は激しさを増し、対中姿勢の厳しさを巡ってトランプ、バイデン両候補が競うことになる。これはバイデン氏には不利である。

  米国が個別事案ではなく中国の体制そのものへと批判をエスカレートしたことに対して、中国には有効な対抗策はない。救いは対コロナ制圧で世界最先頭を走り、経済はV字回復を果たし、中国経済が今のところ充実していることである。

  米国の批判をかわす中国国内での政変、例えば習近平氏の失脚もまず起きないだろう。①長老達はわいろ・不正で弱みを握られている、②デジタル検閲・行動言動監視システムで習近平の個人独裁が完成、③中国国内の愛国教育と情報統制で国民世論は支配者の味方、④軍を習近平氏が統率している、等が指摘される。

  米国は外堀を埋めつつ中国経済力の衰弱を待つという戦略をとらざるを得ない。中国の世界経済に対する関わりは比べものにならないほど大きく、対ソ連の時のような封じ込め策は取れない(ポンペオ米国務長官)。よって中国にとってもまだしばらく信用拡大と公的支出でエンジンをふかす余地がある。アフターコロナを展望すれば、限定的武力行使による市場急落場面があるとしてもなお、株式と経済の長期上昇トレンドは途切れないであろう

 

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yoshizaki.jpg武者陵司氏
1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券(株)に入社。 1988年~1993年ニューヨーク駐在、(株)大和総研アメリカでチーフアナリスト、米国のマクロ・ミクロ市場を調査。1997年ドイツ証券(株)調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券(株)副会長を経て、2009年(株)武者リサーチを設立。 著書に『超金融緩和の時代』等がある。

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