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日本が見捨てられる日(前編) 〜日本は「財政ファイナンス」のトップランナー〜藤巻健史氏(経済評論家・フジマキジャパン代表)

f:id:navimedia:20200907211921j:plain 撮影:椋尾 詩

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。7月には世界の約7割に当たる126の国と地域で感染が再拡大し、4月以来の高水準を記録するなど、一向に収束する気配は見せていない。一時は世界経済を完全にストップさせ、リーマンショックを超えるほどインパクトを株式市場や為替市場に与えた新型コロナウイルスは、世界経済、日本経済にどのような影響を与えたのだろうか、そして日本はどのように対処したのか、その結果、何が起きているのか。90年代の東京市場において、日本人唯一の外銀支店長となった金融のプロであり、現在は経済評論家として活動する“伝説のディーラー”藤巻健史氏に話を聞いた。

以下の取材記事は、個人のご経験やお考えに基づくものです。その内容について当社が保証するものではありません。実際のお取引については、充分内容をご理解のうえご自身の判断にてお取り組みください。

 

▼目次

1.予想外の回復を見せた金融市場
2.世界のトップランナー“日本”
3.日本は“炭鉱のカナリア”
4.過去に学べなかった日本

予想外の回復を見せた金融市場

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編集部:
新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大しています。発生から約半年たちましたが、未だにどの国も有効な解決策が打てていません。藤巻さんは今回のコロナ禍が、日本のみならず世界経済や社会にどのような影響を与えたとお考えでしょうか?
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藤巻:
新型コロナが問題になり始めたころは「ものすごいことが起きるかもしれない」と思いました。IMF(国際通貨基金)も「世界恐慌以来の不況になる」と言っていました。これだけのことが同時に世界中で起きたわけですから、「世界経済はとんでもないことになるだろう。株などの資産価格が大暴落するぞ」と思いました。確かに株などの資産価格は一時的に暴落したものの、予想に反してかなり回復したと思います。

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編集部:
市場が予想以上に回復できた理由はなんでしょうか?
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藤巻:
世界各国で「財政ファイナンス」が行われたからです。世界中でお金が“じゃぶじゃぶ”になったわけです。これが原因で、将来的にインフレになる可能性が高まったと思いますが、そうやって市場に供給された資金が、金、株、“デジタルゴールド”と呼ばれているビットコインのような暗号資産に流れていったんだろうと思っています。
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編集部:
資金の多くが投資に回ったということですか?
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藤巻:
ええ、金や株の価格が上がるときには「資産効果」が現れます。日本がバブル最盛期だった1985〜1990年の消費者物価指数は、0.3%〜0.5%と、実はものすごく低かったのです。

ところが、それにも関わらず「狂乱経済」と呼ばれるほどに経済は過熱しました。その理由は、資産を持っているお金持ちたちが、「さらに金持ちになった」と思い、そのお金が消費に回り、物が売れ、企業業績が上向き、株価が上昇するという好循環が起きたからです。

当時、最高級車と呼ばれた日産の“シーマ”が飛ぶように売れました。私は今、「あのときと同じようなことが、今、世界中で起きているんじゃないか」と思っています。多くの人たちが、「実体経済と現在の株価は乖離している」と言っています。ただ、私は、「そういうことが起きてもおかしくない」と思いました。それは世界的に行われた財政ファイナンスのおかげであり、ある意味で「非常にうまくいっている」ということの結果だからです。しかし、今回の財政ファイナンスは、デメリットがいずれ出てくると思っています。

そのときにどのような結果が待ち受けているのか、これが今後の最大の課題になるでしょう。

世界のトップランナー“日本”

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編集部:
アメリカやEUでも、新型コロナ対策で中央銀行の国債買い入れが実施されました。日本と海外の取り組みに違いはありますか?
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藤巻:
今の状況だけをみたら、どこも同じようなものだと思います。日本と海外の違いは、日本が政治的な理由から、以前から中央銀行が大量に国債保有を増やしていたことでしょう。日本銀行は「財政ファイナンス」において、他国を完全に抑えて、世界の“超トップランナー”であり、残存国債の保有率が50%超だということです。

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編集部:
日本の国債保有率は抜きん出ていますね
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藤巻:
先日の日銀会見で朝日新聞の記者(編集委員)が、「日銀が6割近く国債を持っている事態こそ、財政ファイナンスではないか」という質問を黒田東彦総裁にしました。これに対して黒田総裁は「金利上昇を抑えるための『買い入れ』なのだから、財政ファイナンスではない」と回答しています。

また、私が国会議員だったとき、黒田総裁に「日銀はハイパーインフレを起こさないために、世界中で禁止されている財政ファイナンスを行なっているのではないのか?それは国債の直接引き受けを禁じた日銀法第5条にも反しているのではないか?」と尋ねたところ、黒田総裁は「デフレ脱却のためで財政ファイナンスではない」と答えています。
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編集部:
あくまでも日銀の立場では「財政ファイナンス」ではないと?
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藤巻:
しかし、黒田総裁の答えには無理があると私は思っています。もしあなたの家が燃えていたら、あなたは「火事だ!」と叫びますよね?「火事」であるかどうかは、原因で決まるわけではありません。それが放火であろうと、失火であろうと、家が燃えているのであれば、それは「火事」です。「金利抑制」や「デフレ脱却」が目的だったとしても、日本政府が発行する国債を中央銀行が半分以上も買っていたら、それはもう「財政ファイナンス」そのものだと思うのです。

日本は“炭鉱のカナリア”

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編集部:
今回は世界中で財政ファイナンスが行われたとすると、世界経済は大丈夫なんでしょうか?
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藤巻:
最近、世界中で注目を集めている経済理論「MMT(現代貨幣理論)※1」 を提唱するステファニー・ケルトン教授は「日銀が今、やっていることは『財政ファイナンス』であり、『MMT』 を実践している」と言っています。私はそのことについて国会で黒田総裁と麻生太郎財務大臣に質問したことがあります。そしていつも否定されました(笑)。しかし、「お金が必要だから国債を発行する」「それを日銀が買う」「さらに日銀がお金を刷る」「また国債を買う」こういう繰り返しこそが、財政ファイナンスであり、財政出動ではないかと思うのです。

※1 MMT(Modern Monetary Theory現代貨幣理論):政府が自国通貨建てで支出する能力に制約はなく、インフレ率で財政支出がコントロールできている限り、財政赤字や国債残高を気にする必要はない」という新しい経済理論

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編集部:
アメリカやEUも財政ファイナンスなんですよね?
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藤巻:
先日、新聞の報道で、ECB(欧州中央銀行)は6月末で約30%の保有率と伝えられています。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、3月の時点で約22%と出ていましたが、4月には FRBが貸借対照表のバランスシートを小さくする方針だと伝えられていたので、今は20%程度ではないでしょうか。50%超の日銀と比較すれば明らかですが、もうレベルが違い過ぎるのです。
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編集部:
2倍以上の違いですか。
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藤巻:
なぜこんなに差がついたかといえば、それは他国の中央銀行が財政ファイナンスの危険性を知っているからだと思います。それでも各国政府は実施しました。それぐらいにコロナの影響は深刻だったのでしょう。ただ、彼らには安心材料がひとつありました。それは日銀の存在です。「あんなに先頭を走っているのに、日本はまだハイパーインフレになっていないじゃないか」と考えているはずなんです。裏を返せば「日銀のレベルまではできるんだ」と思っているんじゃないでしょうか(笑)
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編集部:
日銀が「実験台」ということですか?
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藤巻:
まさに日銀は「炭鉱のカナリア」なんですよ。もし、日銀に何かがあれば、他国の中央銀行はみんなで“ U ターン”するんでしょうね。日銀はそういう役回りを演じているんじゃないかと思います。

過去に学べなかった日本

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編集部:
ドイツの裁判所がECBの国債の買い入れについて、「憲法違反ではないか」という指摘をしました。?
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藤巻:
そうなんです。ドイツとスイスは、憲法で財政均衡を義務付けています。第一次世界対戦、第二次世界対戦後に、ものすごいハイパーインフレを経験しているので、彼らの DNA には染み込んでいるんでしょうね。財政ファイナンスはとても危険な行為であり、そうやって財政赤字を膨らましてしまうことが、とんでもない行為だということを記憶しているんです。
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編集部:
日本も太平洋戦争直後にハイパーインフレが起きています。
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藤巻:
すっかり忘れちゃった感じですよね(笑)。これは一橋大学元学長の故石弘光氏がおしゃっていたことなんですが、「アメリカやヨーロッパでは、財政赤字が膨らむとインフレになるから、財政カットを主張する政治家に国民が投票する。しかし、日本では財政カットを主張する政治家には誰も投票をしない」と嘆いておられました。先人の知恵をちゃんと守っているドイツと、すっかり忘れてしまった日本という、まさにその差が現れてしまったのではないでしょうか。
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編集部:
今回、日本では、60兆円規模の補正予算を組んで、コロナ対策のために歳出を増やしました。
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藤巻:
今回はさすがのドイツも国債買い入れも含めて財政出動しています。ただ、ドイツは、ほとんど財政赤字がありません。そんなドイツでも、どうしようもないときには、やっぱりやらざるを得ないんです。しかし、日本とはまったく状況が違います。日本は70兆円の税収しかないのに、160兆円の予算を使うわけです。

つまり借金が90兆円膨らむわけです。しかも、日本はすでに1115兆円の財政赤字です。もしかすると、「単に1115兆円が1200兆円になるだけなんだ」という感覚なのかもしれません。ただ、平時にちゃんと財政再建をしてこなかった日本が、この先一番苦しいことになるのではないかと私は見ています。

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編集部:
それは日銀の異次元緩和策がボディブローのように、後々影響するということでしょうか?
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藤巻:
私は最初から大反対でした。財政ファイナンスをすれば、歴史上、すべてハイパーインフレになっています。しかし、日銀は法律で禁止されているものを、解決方法の準備もせずに、実行してしまいました。深刻なデフレから脱却しなければならないからという理由で、どのような方法があるのかを考えるべきだったのに、十分な議論もないままに、実施してしまった。新型コロナのせいで、更に事態は深刻になりました。私は限界が近いのではないかとは思っています。
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藤巻健史氏
1950年東京生まれ。一橋大学商学部卒業後、三井信託銀行に入行。1980年に米ノースウェスタン大学大学院でMBAを取得。1985年米モルガン銀行に入行、ディーラーとして成績を高く評価され、1995年に東京市場では唯一の外銀日本人支店長となる。モルガン銀行会長から「伝説のディーラー」とのタイトルを受けた。2000年に同行を退行後、ジョージソロス氏のアドバイザーなど務め、2013年〜19年(1期)参議院議員として活動した。現在はフジマキ・ジャパン代表取締役