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日本が見捨てられる日(中編)〜日銀の異次元緩和がもたらしたもの〜藤巻健史(経済評論家・フジマキジャパン代表)

f:id:navimedia:20200908181050j:plain 撮影:椋尾 詩

新型コロナウイルスが世界経済や日本経済に与えた影響と日本と世界各国の対応の違いについて解説してもらった前編に引き続き、中編では、コロナ禍以前より、政府・日銀が実施してきた「異次元緩和」こそが、より深刻な問題となっており、実は日本経済を“崖っぷち”まで追い詰めていると藤巻氏は警鐘を鳴らす。中編では異次元緩和の問題点について詳細に解説してもらった。

以下の取材記事は、個人のご経験やお考えに基づくものです。その内容について当社が保証するものではありません。実際のお取引については、充分内容をご理解のうえご自身の判断にてお取り組みください。

 

▼目次

1.寿司屋で浜田教授と“怪気炎”
2.“じゃぶじゃぶ”でも円安にならない理由
3.拡大する財政赤字と日銀の役割
4.日銀とフジマキの“マイナス金利”はココが違う
5.日銀は日本の最大株主

 

media.gaitame.com  

寿司屋で浜田教授と“怪気炎”

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編集部:
デフレ脱却のために2%のインフレターゲットが設定され、それを実現させる方策として日銀の異次元緩和は実施されました。7年が経ちましたが、2%には一度も達していません。
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藤巻:
実は為替とインフレには深い関係があります。為替が円安になれば、インフレになります。私は20年以上前から「デフレ脱却のためには円安にするべきだ」と主張してきました。

もちろん、緩やかなインフレになるように、穏やかな円安誘導を主張してきました。しかし、今は違います。みんながドル買いに集中すると、ハイパーインフレの“X-DAY”トリガーを引きかねないので、さすがの私も怖いから、大きい声では言えなくなりました(笑)。
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編集部:
確かに「円安」といえばフジマキでした(笑)
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藤巻:
私は以前、日本の景気が悪いのに、なぜ円高になるのかを解説した書籍を出しました。「なぜ日本は破綻寸前なのに円高なのか」(2012年幻冬舎)というタイトルの本です。実はイェール大学教授で東大名誉教授の浜田宏一先生が、この本を読んで「日本人でそう考えているのは、フジマキと自分だけだ。ぜひ会いたい」ということで、私の知り合いの東大スタッフから連絡があり、お寿司屋さんで一緒に食事をしながら“怪気炎”をあげたことがあるんです(笑)
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編集部:
なんだかスゴい組み合わせですね(笑)
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藤巻:
読者の方々の中には「雲の上の存在のような浜田先生が、なぜフジマキと一緒に食事をするのか!」と思われる人がいるかもしれませんね(笑)。ただ、そのときに浜田先生と私は「日本が20年以上にわたってダントツのビリ成長になってしまった理由は円高のせいだ」という結論で一致したんです。浜田先生は「日本経済が低迷している原因は『円高』だ」と断言されて、「景気回復には、『金融緩和』が必要だ」とおっしゃったんです。そのときは安倍政権のブレーンになる前でした。
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編集部:
その後、浜田先生は安倍政権の内閣官房参与に就任され、安倍政権の経済政策のブレーンになられたわけですね
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藤巻:
つまり、日銀の「異次元緩和」は、本来「円高」から「円安」にするための方策だったんです。

ただ、金融緩和がもたらす結果について、私と浜田先生の考えは分かれてしまいました。アメリカで勉強され、アメリカで教鞭をとられてきた浜田先生にとっての市場はアメリカです。私は浜田先生に「(アメリカならば)“じゃぶじゃぶ”になるぐらいお金を市場に供給すると自国通貨は安くなるでしょう。しかし、日本はそういう仕組みになっていないから円安にはならない」と申し上げました。

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“じゃぶじゃぶ”でも円安にならない理由

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編集部:
アメリカと日本で結果が変わってしまう理由はなんですか?
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藤巻:
日本の為替市場に構造的な問題があるからです。少なくとも私はそう思っています。「日本は社会主義的な要素が強く、市場原理が働いていない」としばしば言われますが、私もその考えに同意します。もし量的緩和が実施され、金融機関にたくさんお金が入ってきたら、本来は高金利の外国債などを買うはずなのです。ところが、日本の金融機関は“シミ”のような金利しかつかない日本国債を選択します。
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編集部:
それだと高い運用成績は期待できませんね。
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藤巻:
私が勤めていたJPモルガン銀行でそんなことをしたら、もう間違いなく怒られます(笑)。株主が頭取をクビにするでしょう。ところが、日本の金融機関では、高い運用益を狙うよりも、損を出さないような運用が優先され、為替リスクを取らないという選択がされがちなんです。
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編集部:
それでも、アベノミクス効果で株価は上昇、消費者物価指数も上向いて、当時は金融政策の効果が現れたように思いました。
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藤巻:
そうなんです。私も「このままなら目標に掲げた2%のインフレターゲットが達成できるんじゃないか」と思いました。2012年に約78円だった米ドル/円相場は、2013年4月に量的緩和が始まると順調に円安が進み、2015年には1ドル=125円ぐらいまでになりましたから。将来、異次元緩和の出口を、日銀が本当に見つけられるかどうかはわからないけれど、目標を達成するのではないかと思いました。

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編集部:
確かに為替相場でもかなり円安が進みました。
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藤巻:
ところがその潮目が変わるようなことが起きました。それは2016年1月に実施された税制改正で、2015年12月末まで非課税だった外貨建てMMFなどの為替益が20.315%の申告分離課税になったんです。誰も気にしてくれませんでしたが、私の中では大注目の税制改正でした(笑)。
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編集部:
為替益に課税されると、どういうことが起きるのでしょうか?
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藤巻:
まず、投資家は非課税のときにMMFを売却し、利益を獲得して、その後、もう一度買い直します。ただ、税金を嫌がって買い直さない投資家も出てきます。だから、「それをやったら円安が止まるぞ」と私は言ったんです。非課税のままだったら、130円は超えて、135円までいったんじゃないかなと思います。

ただ、ちょうど2014年にNISA(少額投資非課税制度)がスタートしています。金融業界がNISA導入と引き換えに、為替益への課税を受け入れたのかもしれないなと思いました。

どういう理由があったにせよ、せっかくの円安を止めてしまったことは、現在の日本の不幸につながったのではないかと思います。副作用の強い異次元緩和まで行って、目標を達成しようとしたのに、その直前に、自らチャンスを手放してしまいました。

拡大する財政赤字と日銀の役割

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編集部:
2020年のプライマリーバランス均衡も安倍政権の目標でした。
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藤巻:
もうほど遠いですよね。2010年6月にカナダのトロントで開催されたG20サミットで、日本以外の先進国は2013年までに赤字を半減させる約束をしましたが、日本だけは、プライマリーバランス黒字化という目標でした。財政再建において、“5週遅れ”の約束で許してもらったわけです。それが今や“10周遅れ”になってしまいました。

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編集部:
プライマリーバランス均衡には国債の赤字分が含まれていません。
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藤巻:
そもそもプライマリーバランスの黒字化は、ドーマー定理※1をもとにしています。

簡単にいうと、「プライマリーバランスが均衡しているときに、名目GDP成長率が名目金利よりも高ければ借金が収縮する」という論理です。理由は、名目GDP成長率が高いということは税収が多いということになるからです。名目金利は借金に対する支払金利ですから、支払金利よりも税収が多ければ、徐々に借金は減るわけです。

本当に今の日本でそんなことは起きるのでしょうか。確かに今の日本では、名目金利が名目成長率よりも低い状況になっています。ただ、名目金利が低い理由は、ひとえに日銀が国債を“爆買い”しているからです。

だから、日銀が買うのを止めた瞬間に長期金利は上がるでしょう。どんどんと借金は膨らまざるを得ない状況にあるのです。だからプライマリーバランスが黒字化しても、日本の借金はまったく減らないどころか増え続けていくでしょう。

※1アメリカ人の経済学者エブセイ・ドーマーが1940年代に提唱した「財政赤字維持の可能性」に関する定理

日銀とフジマキの“マイナス金利”はココが違う

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編集部:
日銀は2016年にマイナス金利政策を追加しました。
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藤巻:
日銀のマイナス金利政策は、本当の意味でのマイナス金利じゃありません。私自身も、実はマイナス金利政策を主張していました。私のマイナス金利政策は、預金金利も貸出金利も全部マイナスにするというもので、伝統的な金融政策の延長線上にあります。景気が良くなれば金利を上げて、景気が悪くなれば金利を下げる。景気が悪くなって、金利がゼロになったら、金利をマイナスにすればいいというものです。
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編集部:
具体的にはどこが違うのでしょうか?
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藤巻:
“フジマキ流マイナス金利政策”は、まず預金金利をマイナスにします。

預金金利マイナス5%の銀行には誰も預けません。そのお金で株を買ったり、ドルを買ったりするはずです。その次に貸出金利をマイナス3%にします。銀行から借りるとお金がもらえるので、みんな借金をして家を建てるでしょう。預金と貸出の2%の差分で、銀行の利益も確保されています。

それでも効果がなかったら、いっそのこと、預金をマイナス50%、貸出をマイナス40%にすればいいんです。1年後に預金が半分になるなら、間違いなく銀行にはお金は預けないで使うでしょう。貸出額の40%もお金がもらえるのなら、みんな借金して家を建てます。そのために日銀の当座預金の金利をマイナス45%にします。

日銀に預けていると45%も金利を払わなきゃいけないんですから銀行は40%で貸し出します。そうやってお金がグルグル回るようにすればいいんです。
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編集部:
マイナス50%とは、かなり極端ですね(笑)
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藤巻:
そういう説明をしたら、「とうとうフジマキは頭がおかしくなった」と言われました(爆笑)。まあ、世間一般の常識からは反しているということなのかもしれませんが(笑)、ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は私と同じように、「大幅なマイナス金利にしないと効果を発揮しない」と一生懸命に発言してくれました。
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編集部:
日銀のマイナス金利政策が不十分ということですか?
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藤巻:
現在の日銀のマイナス金利政策は、本当のマイナス金利ではありません。日銀の当座預金は約400兆円ありますが、マイナス0.1%の金利が適用されているのは、政策金利残高のみで約25兆円に過ぎないんです。確かに無担保コールレート※2はマイナス(7月31日確報 平均-0.021%)だから、「マイナス金利」なのかもしれませんが、日銀のマイナス金利政策は「これだけ金利を低くしています」と言うアナウンス効果が目的で、実際はたいしたことないのです。

※2無担保コールレートとは、コール市場で金融機関同士が「今日借りて、明日返す」というような1日で満期を迎える超短期の資金調達、資金供給を、担保を預けずに行う際のレートのこと

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編集部:
マイナス金利の影響で金融機関の収益力低下を指摘する報道があります。
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藤巻:
銀行が苦しいのは、日銀のマイナス金利政策の影響というよりも、国債爆買いの影響で、長短金利差がなくなってしまったからです。地方の金融機関には、苦しいところが増えているようですね。もしかすると、ハイパーインフレが起きるきっかけになる可能性があると懸念しています。
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編集部:
そんなに大きな影響があるのでしょうか
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藤巻:
銀行の収益源は長短金利差なんですよ。異次元緩和は「質的・量的緩和」とも言われます。「量的緩和」とは、その名の通りなのですが、「質的」の意味は、私がディーラーだったころには、まったく買っていなかった長期国債を爆買いすることなのです。現在、日銀が買い入れている国債の97%が長期国債です。爆買いすると価格は上昇し、金利は下がります。

その結果、長短金利差はなくなります。日銀の金融政策の結果、利益が出にくくなっているのに、金融機関の収益力低下の理由が、「地方人口の減少」とか、「サービス開発能力の問題」とか、言われているのは、銀行がちょっと気の毒だなと思います。

日銀は日本の最大株主

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藤巻:
正直言って、世界の中央銀行で金融政策を目的に、株まで買っているところはありません。今や日銀が日本の最大株主です。そのこと自体が異常ではないかと思うわけです。それに追従してGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) も買っています。そりゃ、日経平均も上がります(笑)。日本はこのような“計画的”な経済であるがゆえに、しばらくの間、市場では平穏が続くのかもしれません。ただ、それはどこまで続くでしょうか。いつかどこかで“ポン”と弾けてクラッシュしてしまうかもしれないと思っています。
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編集部:
今回コロナ対策として、60兆円超の国債を発行して特別定額給付金や持続化給付金など、返済をしなくてもいい補助金を配りました。
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藤巻:
いやいや、借金はどんな借金でも返さなきゃいけません。返さなくていいんだったら、誰もお金を貸さなくなりますから。そういう話をすると、「もう借りちゃっているんだからいいじゃないか」と多くの人が言い出します。

しかし、借金のために発行した国債には、必ず満期があります。満期になったら一度は返さなきゃいけない。返さないとデフォルトになります。10年国債なら10年後の返済に回すお金を、必ず集める必要があります。そう考えると、約1200兆円ある国の借金の返済は不可能じゃないかなと思うんです。

現在の国の歳入のうち税収および税外収入は約70兆円です。このうちの10兆円を返済原資として蓄えていくとして120年かかります。私の計算では、明日から消費税を30%にして120年でようやく返せる借金なんです。それは金利ゼロが120年続けばの話で、金利が上昇するなら、金利1%の上昇につき、消費税を5%ずつあげなきゃいけない計算です。

借金が返せそうもないときに取る手段は、歴史的には「徳政令」ですが、そんなことは出来ないでしょうから、債権者から債務者へ実質的に富を移行させるハイパーインフレということになります。
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編集部:
政府の立場としては、給付金や補助金で会社を立て直してもらい、法人や国民は経済活動を通じて税金で返済してくださいという論理ですよね。
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藤巻:
理想はそうかもしれないですが、先ほども言いましたけれど、税収増は名目 GDP成長率が高くならないと無理なんです。国民の人口が一定で経済規模が2倍になれば、国民生活は2倍豊かになり、税収も2倍に増えます。しかし、日本は40年間で、経済規模は2.2倍にしかなりませんでした。お隣の中国は200倍近い。アメリカだって7〜8倍です。残念ながら、日本はまったく成長していません。これでは借金を返せるわけがありません。もはやクラッシュ後の大改革を考えるべきではないかと思うのです。

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藤巻健史氏
1950年東京生まれ。一橋大学商学部卒業後、三井信託銀行に入行。1980年に米ノースウェスタン大学大学院でMBAを取得。1985年米モルガン銀行に入行、ディーラーとして成績を高く評価され、1995年に東京市場では唯一の外銀日本人支店長となる。モルガン銀行会長から「伝説のディーラー」とのタイトルを受けた。2000年に同行を退行後、ジョージソロス氏のアドバイザーなど務め、2013年〜19年(1期)参議院議員として活動した。現在はフジマキ・ジャパン代表取締役